カノモノ、その長き回廊の先に棲むものなり。
総てを見、総てを訊き、総てを知るものなり。

冷たい、無機質な床の感触に身震いする。

前面には、紅々とした、まるで彼の瞳のような幕達と、
質素でいて豪華な服に身を纏う彼。

背面には、これまた絢爛豪華な扉。
僕等の10倍もありそうな、その大きな扉の脇には二人の従者が身構えている。

まさに背水の陣。
恐る恐る、隣の刹那を見やると、唇が震えている。
緊張、しているのだ。
僕と同じくらい、否それ以上。
その唇で、微かに言葉を紡ぐ。

「仁」と。ただ一言だけ。

彼、仁は、不敵な笑みを浮かべ、頬杖をつく。
僕達の心中とは対照的に、余裕の色が見える。

こういうところが嫌いなんだ、と刹那は以前零していた。
嫌い、という訳では無いけれど。僕も正直云って余り得意ではない。

僕と同じ、紅い瞳で。僕と違う、挑戦的な光を瞳に宿す。
その格差に、混乱する。同じであって、違うという事実。

彼の衣擦れの音が、頭に紗を掛ける。
立ち上がる、その動きでさえ刹那の嫌悪の対象なのだろう。
眉根を寄せて、心底嫌そうな顔をしている。

「簡潔に、用件だけを申せ。」

長めの、黒髪を紐で括りながら、仁が話す。
未だ躊躇している刹那の代わりに、僕が答える。

「イーマについて。」

声は、震えていたかもしれない。
仁の、穏やかな笑い声で如何に自分が小さい存在であるか、思い知らされる。

一世一代の大勝負、そんな感じだった。
折角だけれど、もう二度とこんな場面は遠慮したい。

イーマについて、粗方聞き終えた後、
動転する刹那を引きずって、僕は思わず部屋から飛び出してしまった。

閉じていく扉の向こうで、仁が笑っていたような気がした。

*

少々虐めすぎたかもしれない。
ふと、そんな些細なコトが気にかかった。

何年かぶりに会った彼等は、少しだけ変わっていた。
強い、意志を込めた瞳と、臆することなく立ち向かった気丈な態度。
まるで対極に位置するかのようで、根底に同じものを秘めている。
以前会ったときには、存在しなかったものばかりだ。

その癖、自分そっくりの顔立ちと、自分と同じその色はいつまで経っても変わらない。

それがなんだか可笑しくて、ついつい笑みが零れる。

大切な、二人の、

呟いた、最後の言葉は、笑い声に掻き消されていった。

03.08.14

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