001:クレヨン

小さな頃、よく二人で絵を描いた。
日溜まりの、温かな部屋の片隅で、僕等は自分達の世界を想像した。
誰にも邪魔にされることのない、新しい世界を。

*

ふと、自分の名前の呼ばれた気がした。
振り返ると、久遠が笑いながら刹那、と呼んでいる。

何?と至極簡単に、返事を返す。

久遠は、いいから早くこっちへ来て。と手を拱く。

見ると、片手に何か、紙の様なモノを持っている。
これ見てよ、と柔らかく笑いながら、久遠はその紙を広げる。

*

少し黄ばんで、皺の寄ったその紙を開くと、
独特なクレヨンのニオイが辺りに充満する。
アカ・アオ・キイロやミドリ。

様々な色が、混ざり合って一つの世界を作っている。

コレ何?と首を傾げて聞くと、久遠は笑って僕の絵だよ、と云った。

*

昔からそうだった。

久遠の描く世界は、一種独特で不思議と惹かれる世界だと思う。
彼の腕から生まれる、壮大な世界に見とれてしまったことが事実何度もあったのだ。

*

純粋で、穢れない子供のココロそのままのような久遠の絵を見ながら、
僕等は遠い過去へと、記憶を遡らせていった。

001:クレヨン:刹那と久遠。
クレヨンというコトバを使わずに、クレヨンというものを表現したかった。
無理だったけど。
刹那に絵を描かせると、すぐに飽きてしまうと思うのです。

03.05.24