002:階段

「オイ、起きろよこの阿呆。なんで御前がこんなところで寝てんだよ。」

憎々しげな淙汰の声が、頭上から降ってくる。
心底嫌そうな顔をしていたって、淙汰が俺を怒ることなんて滅多にない。

何故なら、淙汰はお人好しだから。

昔から、俺がどんな我が儘を云ったとしても。
嫌々ながらも、淙汰はなんだって叶えてくれた。
最初はグチグチ文句を言う癖に、最終的には笑って叶えてくれるんだ。

淙汰は俺のこと、「我が儘王子」って呼ぶけれど、
その我が儘の基盤を作ったのは淙汰だってコト、忘れてない?
甘やかしてくれる淙汰がいるから、俺は調子に乗るんだョ?

*

これもまたいつもの気まぐれな、壱の我が儘なのだろう。
と、割り切ろうと思ってもなかなかそうとは思えない。
今度ばかりは、流石の俺でも堪忍袋の緒が切れた。

何故なら、壱が俺の家に居るから。
そして何故だか階段の真ん中で、
布団にくるまって幸せそうに惰眠を貪っているから。

このままじゃ二階に上がれない。
というか、壱をココに放っておいたまま寝られるわけ何て無い。
風邪なんてひかせたら、後の仕打ちが恐ろしくて堪らない。

「だぁ!起きろっつってんの!!てゆーか、御前なんでココにいんの!!」

自分で出せる限りの大声を出して布団を剥いでやる。
こんな夜中にこんな大声を出すなんて、ご近所迷惑もいいとこだ。
酸欠で頭がクラクラした。
なのに。

「ん。やだ。ネムイ、ほっとけ。阿呆淙汰。」

ヨリにもよって天敵阿呆壱は、こんなに生意気なこと云ってるし。
また布団被ってるし。また寝始めるし。

「うるせ。仕方ないから一緒に寝てやる。だから入れろ。」

俺は本日何度目になるか解らない溜息をつきながら、
壱の被っている布団に潜り込み、寄せ来る睡魔の波に身を任せた。

002:階段:未完成奏鳴曲。
以前メルマガに載せたモノです・・・・・。
UPする予定は全然なかったのになァ。流石に同じネタで二回もかけませんよぅ。

階段で寝る、という行為はうちの父親がよくやることです。
彼は廊下でも寝ます。何処でも寝ます。

03.06.01