Bitter sweet.

「ユタ。何聴いてるの?」

そう云って、浅日は由高の耳に手を寄せる。
片手で器用に由高のイヤホンを外す。
放課後の無音の教室にスローテンポの音が流れる。
浅日はイヤホンをそっと自身の耳へと導く。

「アサヒ、僕が答える前にもう聴いてるでしょ。」

由高はそう云って微かに微笑んだ。
2人キリの放課後の教室は妙に広く思える。
夕日が暖かな雰囲気を作り出す。
机の動く微かな音でさえ辺りに響き渡る。

「ユタ、タカセ待ってるんだっけ。」
「そう。タカセ遅いよな。アサヒ先帰っててもいいよ。」

いい加減気持ちに気付いてくれたっていいのに。
浅日はそっと毒づく。

「?アサヒ何か云った?」
「ユタ。俺とタカセ、どっちが好きなワケ?」
「・・・・・・・・え」

由高が戸惑う。
それは俺たち三人の中では、禁句に等しかった。
俺こと浅日は由高が好きで。
幼なじみの高瀬も由高が好きで。
だけど由高の口から好きって言葉は聞いたこと無くって。
正直今の関係に満足なんてしてなかった。

「どう?冗談でもいいから好きって云ってよ。」

ほんの少しだけ意地悪。
お人好しの由高の事だからこうでもしないと判らない。

「・・・・・・・僕は・・・・・・」

緊張が走った。
と、共にけたたましいほどの音が鳴った。
教室の扉がスライドする。

「・・・・なんだ。アサヒも居たのか。」
「失礼な。」
「タカセ!!」

由高が嬉しそうに高瀬に抱きつく。
10cmの身長差の所為で兄弟のようにもみえる。

「ッ・・・・いいところで邪魔しやがって!!」

浅日が抗議する。

「・・・・・・・御前ごときにユタカを渡すワケないだろう?」

そう云って嫌味ったらしく高瀬が笑う。
滅多に見せない笑顔に、由高が驚く。

「なんの。勝負はこれからだろ?」
「?」

甘い生活の始まりはこれから。

02.09.22

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