Happiness day.

「偶には俺だって幸せになりたいっての。」

帰路の途中、浅日がつぶやく。
一つ、大きな溜息。
原因は簡単で。
つい数十分前の出来事である。

「ユタ、一緒に帰らない?」

恋の天敵、高瀬は委員会で不在。
これはチャンスと、声を掛けた次第。

「ごめん。今日は駄目。」

しかし無情にも帰ってきた言葉は冷たいもので。
普段誰にでも平等に優しい由高の口から、
そんなに冷たい言葉が放たれるとは思ってもいなかった浅日は
現在一人寂しく家へ向かっているということなのである。

「俺ってなんでこんなに不幸なんだろ・・・・」

そういって家とは逆の方向へと歩き出す。
無意識の行為であって本人には全く自覚はない。
街中を一人徘徊する。

辺りが暗くなり始めた頃。
ふと。携帯が規則正しく振動する。
画面のバックライトが、浅日の顔を照らす。
由高かと期待してみるも、相手は天敵、高瀬であった。

高瀬の電話の内容は、
浅日の誕生日祝いの言葉とちょっとした悪口であった。

「ただいま。」

珍しく落ち込んで玄関の戸を開ける。
奥の方から賑やかな声が聞こえる。
自分が落ち込んでる時に限って・・・・・・。
無性に腹が立つ。

「浅日、お客さん。」
「は?」
「いいから。早く行きなさい。アンタの部屋にお通ししたから。」

こんな時間に誰だろう?
ひょっとしたら隣りに住んでいることだし、
高瀬かもしれない。と一瞬思ったが、
あの高瀬が用もないのに浅日を訪ねてくるだなんて考えられなかった。
じゃぁ一体誰?
そんなことを考えながら階段を上る。

部屋のドアノブに手を掛けようとした瞬間。
光が射す。
触れてもいないのに扉が開いた。

「オカエリ。」
「・・・・・ユタッ!!?」

そこには由高の極上スマイル。
浅日の手を掴んで部屋の中に招き入れる。
未だ状況の掴めない浅日に向かって、
由高が微笑みながら話しかける。

「アサヒ。誕生日オメデトウ。」
「・・・・・俺、ユタに嫌われたのかと思った。」
「どうして?」
「だって今日。ユタ冷たかったじゃん。」

浅日が俯いたまま話す。
頬を膨らませて拗ねている。
こんなところが子供みたいで可愛いと
由高はついつい思ってしまう。

「さっきはね。アサヒの為にプレゼント買いに行こうと思ったんだけど・・・・。
何買っていいか判らなかったから何も買えなかったんだ。御免ね。」

先ほどの態度の裏に自分に対する愛情が隠れていたことを知り、
浅日は酷く驚いた。
同時に、そんなことで拗ねていた自分の心の狭さを恨んだ。

「アサヒ。何が欲しい?」

由高が見上げる。
浅日はしばらく考えてから、由高をそっと抱きしめた。

「何もいらない。ユタがここにいて、今こうして居てくれるだけでいい。」

由高はそれを聞くと、
そっと浅日の背中に手を回し愛おしそうに浅日を抱きしめた。

02.10.08