眼を開けるのが億劫だ。
コメカミの辺りに鈍く響く鈍痛。
身体が重い、動けない。
半身にまとわりつくような、温い感覚に犯される。
嗚呼、気味が悪い。
「刹那刹那!!」
久遠が慌ててやってくる。
普段、穏やかな兄にしては珍しい。
宥め賺しながらなんとかその理由を問いただす。
「はぁ!?イーマが出た!?」
「そうなんだよ!!僕もう吃驚しちゃって!!」
イーマというのは常闇の生き物だ。
弱り果てたココロに付けいって、そのものの魂ごと貪る。
非常に貪欲な、そして厄介なものだと訊いた。
訊いた、というのはここ数百年、イーマを自身の目で見たモノはほとんどいないからだ。
勿論、俺だって見たことはない。
「てゆーか、オマエ、イーマ見たことあるのかよ・・・・。」
至極当然な疑問を投げかける。
「前に文献の挿絵で見たことあるだけなんだけど。」
そういって、紅々とした舌を出す。
イーマが現れたとなると、コトは急を要する。
先刻も云ったとおり、イーマを実際に目にした人間が少ないのだ。
対処法でさえ、知っている人間は少ないだろう。
久遠が文献を見たと云ったが、それだってアテにはできやしない。
なぜなら文献のある資料庫には、信じられないくらい沢山の本があるのだ。
こんな緊急時に一つ一つ調べるなんてとても考えられない。
「・・・・どうする・・・?」
俺の考えてるコトを察したのか、久遠がおずおずと訪ねてくる。
縋るような瞳に、吸い込まれそうだ。
どうしたらいいか、なんて俺のほうが訊きたい。
様々な疑問が脳内を駆けめぐる。
こんな時に限って、彼奴の不敵な笑みが頭から離れない。
口元だけを動かす、俺の嫌いな笑い方。
決して好きなんかじゃないのに。寧ろ会いたくもないのに。
頼らなければいけないと解ってる。頼らざるを得ないことも。
それでも踏ん切りがつかないのは、俺の勇気が足りないのだろうか。
たった一歩が踏み出せない。
呆れるくらい簡単な一歩なのに。
「刹那の考えてることくらい、僕にだって解るよ。行こう。」
一頻り思考を巡らせた頃に、久遠が一番欲しいコトバをくれた。
03.07.24